病院やクリニックなど医療機関向けのwebサイトにCIについて情報提供をして欲しいとある大手人材派遣会社より依頼を請けて原稿を書きました。せっかくなのでひとりごとに。
CIとは、コーポレート・アイデンティティ(Corporate Identity)の頭文字をとった言葉で、企業イメージを統一し、できるだけ多くの人に向けて、効果的に会社の魅力を伝える方法のことを言います。 コーポレートとは、企業や会社(企業体)、法人や各種団体などを指します。アイデンティティは同一性などと訳されますが、企業に当てはめると“その会社がその会社である条件”“その会社がその会社であること”“その会社らしさ”を指し、経営技法としてのCIは「企業イメージの統一技法」などと意訳されます。
例えば道を歩くと、目を覆いたくなるような陳腐な会社のデザインや、機能的な配慮がなされていないデザインのお店や病院、古くさくて大丈夫だろうか?と心配になるようなお店やクリニックを目にすることが多くあります。企業は良いモノを良いサービスで売れば良いのであり、医療は医療行為を行なえば良いのですが、果たしてそれでよいでしょうか。もちろん医療は単なるサービス業ではありませんから、医療行為自体の質が第一であることは間違いありません。しかし、“患者”ではなく、多くの“生活者”を対象とするサービス業のひとつであるという側面においては、古くさかったり、格好悪かったり、陳腐な素人まがいのデザインだったり、機能的に破綻しているデザインだったりした場合、生活者はどのように判断するでしょうか。古くさく格好悪いクリニックにはそのままの古くさく格好悪いイメージ、明るく格好良いデザインのクリニックには明るく格好良いイメージが、必ず付きまといます。
ここで注意しなければならないのは、生活者が感じるイメージ(認知)とは、医療行為自体の質のイメージと比例してしまうということです。現在は「ぼろは着てても心は錦」「男は黙って○○ビール」の時代ではなく、自らの良さや価値観を表現しなければ認知されない、競争の時代です。見かけがぼろくても医療行為が素晴らしいんだからそんなことは関係なく地域の人々は理解してくれる、黙っていてもうちのクリニックが良いことくらい誰でもわかる。果たしてそうでしょうか。失礼ながら自己満足の世界じゃないでしょうか。恐らく、信頼を培ってきたクリニックではそのような形でも大いなる業績を上げていらっしゃる例もあることは否定しません(突き詰めれば他に何か御自身が気づいている、いないに関わらずチャームポイントが個別の事例に存在しているはずなのですが)。しかし、現在の生活者は、同じモノやサービスならば、イメージの良いモノやサービスを確実に選びます。初めてそのクリニックを見た地域の生活者がいた際に、古くさくかっこうわるい医院よりも明るく綺麗なクリニックをまず選びます。もちろん、何でも新しければよいのではなく、古くて良いモノが尊ばれる世界ではその枯れ方が受ける場合もあります。古くさいと古くて良いモノは全く異質なものです(紙一重の場合もありますが)。
クリニックに代表される医療機関の場合、見かけのイメージがたとえ何となく感じるというレベルであっても確実に医療行為自体も古くてイマイチな医療行為をイメージさせてしまうからです。実際に私が幾つか事例を見た限りではそのような現象がありました。また、新しいクリニックでもイメージをキチンと発信できなかったりしてそのクリニックの良さが伝わらず、患者さんが集まらずに苦戦している事例なども身近にあります。優秀な医師のはずなので何とかして上げたいと思う気持ちもあるのですが、自ら医師が気が付いて私に尋ねない限り上手くいかないでしょうから静観有るのみです…。
デザインイメージが同じレベルならお客さんはイメージの良いお店に必ず入ります。しかし、イメージがよいとは一概に1つの尺度では測れません。タリーズが好きなお客さんもスタバが好きなお客さんもドトールが好きなお客さんもいるからです。それぞれのファンはそれぞれのコンセプトに共感する人がいれば商品特性が好きだという人もいれば、ブランドイメージが好きな人もいます。ですから商品特性の個性化と商品品質の向上だけではブランドイメージは向上しないのです。ですので、私は、CIやブランド構築の際には、「理念概念(思想、志、コンセプト)」「事業概念(具体的現象的に何を売るかではなくどのような便益を提供するか)」「デザイン概念(ブランドイメージの表現と発信)」の3つを三位一体で突き詰めていく必要があると解説しています。
昨今は薄型テレビが大ブームですが、国内の一流ブランドのテレビとアジア系の無名ブランドのテレビが同じ値段であれば、日本ではほぼ間違いなく一流ブランドが選ばれます。OEMで実は同じメーカーが東南アジアの同じ工場で同じスペックで作ったテレビであってもブランドイメージが良い方の(好きなブランドの方の)テレビを少し高くても買うはずです。ほぼ同じ品質のモノなら一流ブランドの方が価格は高く売れます。これは蓄積してきたブランドの信頼や好意=ブランド資産であり、一流ブランド同士でも、生活者は購買条件が同じであれば、必ずブランドイメージの良い方を購入します。
もちろん、単に格好良いシンボルマークをデザインすればよいというわけではなく、店舗であれば店舗イメージ、商品であれば商品イメージ、企業であれば企業イメージを、ブランドデザインマネジメントによってどのように向上させていくかということになります。100社あれば100様の方法論が存在します。トップの意志と内部スタッフの能動的な発想と行動が大事です。
医療機関であれば病院であれクリニックであれ医療行為の質自体を高めること、医療サービスの向上が医療機関の責務です。私どもの経験でも、質の高い医療サービスと質の高いデザインによるイメージ発信に成功しているクリニックは、後発でありながらも地域一番のクリニックとなっています。高質なデザインを取り入れ、医療行為自体の質はもちろん、クリニックイメージの維持向上にトップが取り組んでいます。それにより、ユーザーである患者はクリニックのイメージを医療行為の質と共にネーミングやデザインと包括的にイメージすることになり、これが信頼や好意という好イメージ因子とくっついて強固な関係が築かれます。地域のクリニックブランドの誕生であります。
医療機関として活動する皆様は、組織体の理念、思想、夢、使命、志、目的、存在意義等をベースとし、生活者へのメッセージ〜私たちはこれを“信頼と約束”という言葉に集約して考えます〜としてのデザイン開発を施される必要があります。もちろん、組織の規模や活動内容により、注力できるパワーやコストに制限があるケースも多くありますが、組織の目的に応じた集中的施策は、極めて今日的な課題です。いずれにしても、医療機関を取り巻く社会環境全体を視野に入れたスキーム(ブランドデザイン戦略)を、イメージ的側面、およびマーケティング的側面などを含め総合的に判断しながら、的確に施行していくことが大切なのです。 また、デザイン自体もピンからキリまで有りますから、力のないところにブランドデザインを依頼するとお互いに不幸が待っています。デザインを見極める目を経営者であるトップは持っていなければいけません。私はデザインのことはわからない、、等と言っている場合ではないのです。
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